乳がんと遺伝 ~大丈夫を確かめるための乳がん検診~
みなさま、こんにちは。あっという間に10月も過ぎ、気が付けば11月ですね。10月のピンクリボン月間も終わりましたが、検診はいつ、どのタイミングで受けても大丈夫ですので、年末の忙しくなる前にまだ受けておられない方は受けましょう。
さて先日、先輩の先生がラジオで乳がんについてお話されるのを聞く機会がありました。そのラジオは元読売テレビのアナウンサーの清水健さんがパーソナリティーをされているClipという番組でした。清水さんは奥さんを乳がんで亡くされており、それをきっかけに現在、がん撲滅や難病対策などへの基金を設立され、いろいろな講演活動をされている方です。
その先生とのお話の中で、清水健さんが、検診は大丈夫を確かめるために行ってほしいと言っておられたのが印象的でした。検診行くのが不安やな、異常を言われたらどうしようという後ろ向きな気持ちでなかなか検診に足が向かない方も多い中で、大丈夫を確認するというのはすごく前向きでいい言葉だなと思いました。
さて、今回の話題は、突然ですが乳がんと遺伝についてです。よく、検診を受けてこられなかった患者さんから、家族に乳がんの人もいないし、自分は大丈夫かなと思って受けてこなかったという方が結構います。よく、『うちは癌家系で~』とは、『うちは糖尿病家系で~』などという話題が出るかと思いますが、確かに家系的にかかりやすいなどはあるとは思いますし、実際に乳がんの5-10%に遺伝的に乳がんにかかりやすい体質の方がいることもわかっています。ただし、逆に遺伝的にかかりにくいということは特になくて、実際乳がんになった方で家族に乳がんの人がいるのは2割もおらず、8割近くの人は特にご家族に乳がんの方がいなくてもかかっています。
『うちは癌にならない家系で~』なんてことはないということです。
周りに乳がんの人がいなくても、大丈夫を確認するために、定期的に検診を受けることをおすすめいたします。
もしも、大丈夫でなくても、検診で見つかる程度の乳がんで命をなくすようなことは、1割にも満たないですし、結果的には検診で大丈夫なのか、検診で乳がんが見つかったけれども早期に治療できたので、大丈夫という風になればいいなと思います。
また、乳がんには遺伝性乳癌卵巣癌症候群という、BRCA1,BRCA2という遺伝子に変異を生まれ持っている方がいます。これが有名になるきっかけは、ハリウッド女優のアンジェリーナジョリーさんが公表したことが大きいかなと思います。このような方は、70歳まで乳がんを発症する確率が約50%~60%程度と高く、そのほかにも卵巣癌や膵臓癌、男性なら前立腺癌のリスクも高いことがわかっています。また、そのような方は比較的若い時に乳がんになる方も多く、1度とは限らず、複数回乳がんになったり、両側になったりすることも多いです。
日本では2020年4月に条件を満たす人で乳がんを発症した方はBRCA1、BRCA2遺伝子変異を調べる検査が保険適応となりました。また、先ほど述べたように、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の方は何度も乳がんにかかる可能性があり、卵巣がんのリスクも高いため未発症の乳房や卵巣卵管を予防的に切除するリスク低減乳房切除術(risk reducing mastectomy:RRM)やリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo‒oophorectomy:RRSO)も保険適応となっています。
また、通常の乳がん検診では見逃されてしまうリスクもあるため、術後の乳がん検診としてのMRI検査も保険適応となっています。
こうして、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の方に対する対策もどんどん進化しています。過去に乳がんになり、現在は術後の経過観察が終わっているような方も、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の可能性がある方は今からでも検査を受けたり、対策をとったりすることができますので、もしも以下の条件に当てはまるような場合は、手術を受けた病院や、もちろん当院でもご相談を受け付けることはできますので、気になる方はご相談ください。
乳がんは多くは家族歴がない方でもなります。また、家族歴がある方は遺伝性乳癌卵巣癌症候群の可能性があります。いずれにしても、私も含めて女性は乳がんがもっともかかりやすい癌であることは間違いありませんので、大丈夫を確認するため、また、乳がんになっても早期発見で大丈夫と言えるように、定期的な乳がん検診をうけるようにしましょう。