乳がんの診断・治療
乳がんについて
乳がんは現在、日本人女性の約9人に1人が罹患し、年間約9万7千人が罹患しています。もちろんこれは、女性では最もかかりやすい癌が乳がんということです。
ただ、乳がんで死亡する方は年間1万5千人弱と部位別では第4位ということで、治る方が、断然多い癌であります。
乳がんは、もともとは欧米人がなる頻度が高い癌でしたが、日本の欧米化や晩婚化、少子化、女性の社会進出などの様々な影響を受け、上記の表のように日本で急激に増えています。
また、死亡者も、上昇してきているのが現状です。
ただ、前述したように乳がんになっても、早期発見、早期治療で治る方が多いです。
そのためには特に40歳以上の方は定期的な乳癌検診や40歳未満の方もご自身の『乳房を意識する生活習慣:ブレスト・アウェアネス』が重要です。ブレスト・アウェアネスには、以下の4つのポイントがあります。
- ご自分の乳房の状態を知る
- 乳房の変化に気を付ける
- 変化に気付いたらすぐ医師へ相談する
- 40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける
これらを実践して、早期発見、早期治療を行えば、必要以上に恐れる病気ではありません。
乳がんの症状
主な症状は乳房のしこり、皮膚のひきつれ、乳頭や乳輪のただれ、左右差が出てくる、乳頭からの分泌物があるなどです。2020年の乳癌学会の報告では自己発見が51.5%と半数以上を占めています。
症状だけでは、乳がん以外の病気の場合もあるため、診断には専門医による適切な検査、診断が必要となります。
確定診断は、基本的には病理検査(顕微鏡による検査)での診断を必要とします。
乳がんの診断には最初に、目で見て確認する視診と、触って確認する触診、マンモグラフィ、超音波(エコー)検査を行います。乳がんの可能性がある場合には、病変の細胞や組織を顕微鏡で調べて診断を確定します。
がんの広がり方や転移を調べるためには、MRI検査、CT検査、骨シンチグラフィ、PET検査などの画像検査を行います。
それぞれの検査については、検査についての項目で詳しく説明しています。
当院では、専門医による、視触診、マンモグラフィ、超音波検査、細胞診、組織検査まで可能であり、がんの確定診断まで行うことができます。
万が一、乳がんと診断された場合は、手術、放射線治療、抗がん剤や分子標的薬による薬物治療は、適切な専門の総合病院にご紹介させていただきます。院長執刀の手術を希望されるかたは、毎週水曜日にりんくう総合医療センターに手術応援に行っているため、りんくう総合医療センターで手術までさせていただくことも可能です。また、術後のホルモン療法や経過観察などは当院でも対応可能です。
乳がんのタイプ
乳がんには専門的な用語では顕微鏡的な癌組織の構成による組織学的分類というものや、薬の反応性や増殖の強さの指標による分類であるサブタイプ分類があります。
組織学的分類
組織学的分類は、顕微鏡で見た時のがんの構造から分類されていますが、この分類で、大切なことは非浸潤癌か浸潤癌かというところが、重要になってきます。
非浸潤癌
非浸潤癌は、がんの発生部位である乳管内または小葉内に癌がとどまっており、全身に広がる経路となる血管やリンパ管の存在する部位には癌が存在せず、適切な治療をすればほぼ100%根治できます。この状態で手術ができれば、抗がん剤治療を必要とすることはなく、治療の負担も軽く済みます。
浸潤癌
浸潤癌は乳管または小葉の壁を越えて、周囲の血管やリンパ管が存在する部位まで癌が広がっている状態を指します。この場合は、転移をする可能性があるため、全身的な治療も含めた治療が必要になります。また、治療をした段階の病期の進行度(ステージ)が進んでいると、転移再発のリスクが高まっていきますので、再発予防のための治療がいろいろと必要になります。
浸潤癌の組織学的分類は約7割が乳管から癌が発生したタイプの乳管癌であり、その他は特殊型と分類されていますが、細かい組織学的分類はそこまで、治療に大きく影響しないことが多いです。
サブタイプ分類
サブタイプ分類とは乳がんはがん細胞の性質によって、薬の反応性や増殖する力の強さなどが異なっており、それらの性質を示す指標としてホルモン感受性・HER2過剰発現・がん細胞の増殖能力:Ki-67などがあります。これらの指標によって5種類に分類したのがサブタイプ分類です。
このサブタイプ分類は再発予防のために適切な薬物治療を選択するために重要な検査となります。
乳がんの治療
ほとんどの人が手術だけでは治療が終わりません。
- 手術
- 放射線治療
- 薬物療法
- その他
(乳房再建、メンタルケア、緩和ケア 等)
これらを組み合わせて完治や延命へと導きます。
一人の乳癌患者を治すためには、様々な職種の人がチーム医療を実践することが大切です。
乳がんの手術について
乳がんの手術では、主に乳房の手術と乳房の所属リンパ節である腋窩リンパ節に対して手術を行います。
乳房の手術
乳房の手術では大きく分けて、乳房を全切除する方法と、乳房を部分的に切除する方法があります。
手術術式の一覧は以下に示すとおりです。
腋窩リンパ節の手術
腋窩リンパ節の手術は画像診断などでリンパ節への転移を疑う所見がない場合はセンチネルリンパ節生検という方法がとられることが一般的です。
センチネルリンパ節生検とは、乳房から癌細胞が最初に行きつくリンパ節を特殊な色素や放射性同位元素を含む薬剤を乳輪皮内に注射することによって同定し、そのリンパ節のみを切除してがんの転移を診断したうえでリンパ節をとる範囲を決める方法です。センチネルリンパ節に転移がない場合は、それ以上のリンパ節をとることはしません。
また、最近では、転移の程度が軽い場合も一定の条件を満たせばリンパ節をとる手術を省略することが一般的となりつつあります。これにより、リンパ節をとることによる、リンパ浮腫などの術後の後遺症の発生頻度が下がります。適切な治療をした場合は、リンパ節をとらないことによる再発リスクの上昇もありません。
手術前にすでにリンパ節転移がある場合は、基本的には腋窩リンパ節郭清術が行われます。
乳がんの再建手術について
2013年にはシリコンゲル充填人工乳房(ブレスト・インプラント)を使った乳房再建術が保険適応となりました。それ以降、日本でも再建手術を希望され、施行されることが増えてきています。
再建方法はブレスト・インプラントをいれる人工物法と自分の組織(腹直筋皮弁、広背筋皮弁、深下腹壁動脈穿通枝皮弁など)を使う自家組織移植法があります。
また、乳がん手術と同時に行う再建を一次再建、乳がん手術とは別の時期に後から行う再建を二次再建といい、再建の手術回数が1回で行うことを一期再建といい、先に組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー;TE)を挿入し皮膚を伸展させて、あとから自家組織やインプラントに入れ替える方法を二期再建といいます。
乳がんの薬物療法について
乳がんは一律同様の疾患ではなく、局所病変としての傾向が強いものから全身病としての傾向が強いものまで様々であると考えられていますが、浸潤癌となった段階で、全身性に微小転移が広がっており、それを制御することが大事と考えられています。全身性に広がった微小転移を制御する方法としての役割として薬物療法が重要です。日々、新規の有効な薬剤が開発されており、現在の薬物療法はより複雑化し、個別化してきています。
主な薬剤の種類にはホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などがあります。さらにそれぞれにたくさんの有効な薬剤があります。
比較的、副作用の少ないホルモン剤による治療は当院でも可能ですが、その他の薬剤に関しては、基本的には手術を行った総合病院の乳腺外科でしていただくことになります。
薬物療法は、行うタイミングや、病気の進行度によって目的が異なります。
タイミング 病気の進行度 |
目的 |
---|---|
術前化学(内分泌)療法 | ①手術療法の選択性の改善 ②乳癌の治癒と治療効果の情報を得る ③再発および乳癌死亡の低下 |
術後化学(内分泌)療法 | 微小転移巣を消失させ、再発および乳癌死亡の低下 |
転移、再発治療 | ①症状緩和 ②QOLの維持 ③延命 |
薬物療法には、様々な種類がありますが、個々の患者さんの治療法は人それぞれ、違いがありますが、根拠に基づいた治療(Evidence-based Medicine:EBM)を行うことが推奨されます。EBMとは基本的には現在利用可能な最も信頼できる情報を踏まえて、目の前の患者さんにとっても最善の治療を行う、ということになります。
つまり、EBMとは医療を円滑に行うための道具であり、行動指針です。
当院でも、EBMに基づいた治療を心がけており、乳がんの治療にかんするご相談にも対応可能です。
乳がんの放射線療法について
乳がんの手術は徐々に縮小傾向です。これは、さまざまな薬剤の登場によることと、放射線療法の役割が大きいです。手術で温存した乳房への照射や、手術で取り切れる範囲を超えたリンパ節領域などの照射や、転移部位の症状緩和のための照射などがあります。
ただし、妊娠中の方、遺伝的な問題のある方、活動性の膠原病のある方、過去に放射線照射をしたことがある方、同じ姿勢を保持できない方などは放射線治療が不可の可能性があります。
放射線治療は基本的には総合病院の放射線治療科で治療していただくことになります。
乳がんの予後について
よくがんと診断されると予後を気にされる方が多いですが、乳がんと診断されても、すぐに命に直結するわけではありません。下のグラフは国立がん研究センターが発表している乳がんの5年生存率です。ネット・サバイバルが純粋に「がんのみが死因となる状況」を仮定して計算する方法です。
病期 | 対象数 | 集計対象 施設数 |
生存状況把握 割合 |
平均年齢 | 実測生存率 | ネット・サバイバル | 95%信頼区間 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 83,208 | 440 | 98.4% | 60.3歳 | 88.1% | 91.6% | 91.4%-91.9% |
Ⅰ期 | 38,657 | 437 | 98.4% | 60.2歳 | 95.2% | 98.9% | 98.7%-99.2% |
Ⅱ期 | 30,509 | 440 | 98.3% | 60.0歳 | 90.9% | 94.6% | 94.3%-95.0% |
Ⅲ期 | 9,767 | 436 | 98.4% | 60.8歳 | 77.3% | 80.6% | 79.7%-81.5% |
Ⅳ期 | 3,935 | 425 | 98.3% | 60.5歳 | 38.6% | 39.8% | 38.4%-41.3% |
がん情報サービス 院内がん登録生存率集計結果閲覧システムより引用
定期的な乳がん検診やブレスト・アウェアネスを心がけて自己発見した場合は、ほとんどがステージⅡ期までの癌ですので、正しい対処をすれば、ほとんどの方ががんサバイバーとなりますので、必要以上に恐れず、治療に取り組んでいただければと思います。そこに私たちが少しでもお役に立つことができればと考えていますので、いつもで、お気軽にご相談ください。